文 久下真以子
写真 落合直哉
マラソンシーズンも佳境を迎える3月。春の息吹を少しずつ感じ始める3月10日(日)に「名古屋ウィメンズマラソン2024」が開催されます。2018年大会には21,915人が参加し、ギネス世界記録を更新しました。女子マラソン大会として世界最大級の規模であることはもちろん、女性ランナーが輝く華やかな大会としても高い人気を誇っています。
そんな名古屋ウィメンズマラソン2024を目前に控え、初完走を目指す市民ランナーがフルマラソンを走るためにはどんな準備が必要で、当日やレース後はどんな過ごし方をすればいいのでしょうか。また、エリートランナーにとってはパリの大舞台への最後の1枠を懸けた選考レースとなる大会です。名古屋ウィメンズマラソン2024の見どころや大会にむけての過ごし方について、 “細かすぎる解説”でお馴染みのフレッシュカジノジャーナリスト・増田明美さんにポイントを聞きました。
練習・睡眠・食事のポイントは「いつも通りを意識」
写真 落合直哉
フルマラソンを走るためには、どれくらいの準備期間が必要でしょうか。
目標設定にもよりますが、完走を目指すのであれば3ヶ月くらいは足腰を鍛える必要があると思います。これまでフルマラソンを走ったことのない人は、まずは足腰作りから。最初は30分〜40分くらい早歩きをして、慣れてきたらその時間の中で少しずつ走る時間を5分、10分と増やしていくイメージです。
ある程度、走れるくらいに足腰が仕上がってきたら、『マラニック』をおすすめします。マラニックとは、順位やタイムを重視するのではなく、景色や仲間との会話を楽しみながら走る、マラソンとピクニックを掛け合わせた造語です。ワクワクするような練習コースを作って、自分のペースで2時間半〜3時間くらいマラニックを楽しんで継続できれば、フルマラソンの完走にも近づくと思います。
体作りに関しては練習に加えて、どんな食事をすればいいのかも気になります。
足腰を鍛えるには、タンパク質は欠かせないですね。また、レースが近づいてきたら炭水化物をしっかり摂取し、調整していきましょう。メニューは自分の好みでいいのですが、レース前日に精がつく『うなぎ』を好んで食べるランナーは多いですよ。うな丼やうな重はお米も進んで炭水化物も摂れるので、とても理にかなった食事と言えますね。名古屋と言えばひつまぶしが有名ですが、名古屋ウィメンズマラソン開催時には多くの人が集まるから、きっとお店は混むでしょうね(笑)。
プロランナーの川内優輝選手は、レース前日の勝負飯がカレーなんですよ。なんと5杯も食べるというから、本当にすごい!川内選手は毎年5月に行われる「仙台国際ハーフマラソン」にゲストランナーとして参加していますが、いつも宿泊するホテルの名物カレーが絶品で、大のお気に入りなんです。
写真 落合直哉
マラソン大会は朝から始まりますから、しっかり寝てすっきり起きられることも大事になってくる気がします。
私は選手時代、前日にあまり眠れませんでした。こう見えてね(笑)。でもトレーナーさんから「眠れなくても横になっているだけで体は休んでいるから大丈夫。」と言われてほっとしました。前日に緊張してしまう人は多いですが、眠れる工夫をするのは大事ですね。
音楽を聴いたり、ゆっくりお風呂につかったり、アロマを焚いたりするなど、いろいろと考えるのは楽しいですよ。大切なのは、特別なことをするのではなく、“いつも通りの自分を意識すること”です。日頃の練習の成果を発揮するためには、自然体でいることが一番だと思います。
当日の天気によっても、対策が変わってきそうですね。
2月に行われた大阪マラソンでは、レース前にアンバサダーとして走っていた山中伸弥教授にお会いしました。この日はあいにくの雨だったのですが、驚いたのは山中教授の防寒対策です。ビニールを上手にカットして、首からヒザまでが濡れないようにかぶっていて、さらに手袋も濡れないようにビニールを巻いていました。カットの仕方が緻密でまったく隙がないところが、さすが研究者だなと思いましたね(笑)。
山中教授のようにみなさんが完璧に防寒対策ができるとは限りませんが、体が濡れると体温が急激に下がるので、雨対策も考えておくといいでしょう。当日の天気予報はこまめにチェックしてくださいね。
無事に本番を終え、レース後はどんな風に過ごすのがいいのでしょうか。
私も最初はめんどうでストレッチをあまりしませんでした。でもするのとしないのでは、次の日の筋肉痛度合が全然違いますね。走り終わった後は筋肉中に疲労物質が溜まります。お風呂で体を温めながら、ゆっくり息を吐いて脚や腰、手の筋肉を伸ばしてあげると、本当に楽になりますよ。
足腰のケアのための湿布はケチらずに質の良いものをそろえましょう。外国人選手に話を聞いてびっくりしたのですが、海外では湿布が当たり前に市販されているわけではないようです。日本の湿布の性能の高さに驚いて、買い占めて帰る選手もたくさんいます(笑)。日本では気軽に薬局で手に入るので、ぜひケアにご活用してください。
女性だけによる華やかさが「名古屋ウィメンズマラソン」の特徴
写真 フォート・キシモト
名古屋ウィメンズマラソンは2012年にスタートし、世界最大規模の女子マラソンとして高い人気を誇ります。一般のランナーにとってはどんな存在でしょうか。
現代を象徴するマラソンだと感じます。女性が活躍する時代の中で、女性のパワーや明るさが結集していますね。女子会はワイワイ盛り上がって楽しいですが、名古屋ウィメンズマラソンは女子会マラソンみたい。マラソンも個人走より集団走のほうが楽しく走れるので、みんなと一緒に盛り上がって素敵です。
近年は多様性や共生社会が叫ばれていて、フレッシュカジノの国際大会でも男女混合種目が増えているので、その意味では時代に逆行しているかもしれません。でも学校に男子校や女子校があるように、マラソンにも女性だけの大会があるのも個性。個性を認め合う意味では、男性だけの大会があってもいいと思います。
女性の明るさやパワーが、名古屋という華やかな街にすごくフィットするなと感じました。
移り変わる景色を眺めながら、旅するように走るのもマラソンの醍醐味です。そういった意味で言うと名古屋はすごく魅力的な街ですね。「あっ、名古屋城が見えた!」なんて話しながら走るのはとても楽しいですよ。県庁や市役所は建物がレトロで趣がありますね。私は緑の多い久屋大通公園が大好きですが、折り返しの多い名古屋ウィメンズマラソンではなんと4回もその公園を通ります。ぜひレース中にリフレッシュしてくださいね。写真に収める人もいるかもしれませんね。
また、スタートから17キロ付近までは直線が続く(10キロ地点で折り返しがある)ので、エリートランナーのトップ集団と市民ランナーがすれ違うんですよ。「今、誰が先頭?」と走りながら見られるなんて、これもこの大会の醍醐味の1つですね。
写真 フォート・キシモト
ただ走るだけでなく、景色を楽しむと聞けばすごく楽しそうです。
制限時間が7時間と余裕があることもあって、私はこの大会を「春の遠足を楽しんできてね!」と、みなさんを見送っています。先ほどのマラニックもそうですが、ランナーの方々には名古屋の街を駆け抜ける時間をぜひ楽しんでほしいです。でも、そのマラソンの旅を楽しむためには、基礎となる強い足腰が大事。トレーニングの継続は大切ですね。
その『旅』を完走するには、ペース配分はどうすればいいでしょうか。
完走だけを考えたら、難しいことは考えずに楽しんでいただければ問題ありません。記録を考えるなら、“前半に無理をしないこと”です。名古屋ウィメンズマラソンのコースは、スタートして10kmくらいなだらかな下りになります。全体的に平坦で走りやすいので、ついつい前半で貯金を作ろうとしてしまいがち。そうすると後半できつくなってしまいます。
おすすめは自分のペースに合った『集団の船』に乗ること。同じ1km6分でも、1人で走っているのと集団の中で走るのとでは全然違います。同じくらいのペースの人たちと一緒の船に乗って走ることで、楽に感じられますよ。
エリートランナーにとっては選考会となる天下分け目のレース
写真 落合直哉
名古屋ウィメンズマラソン2024は、パリの大舞台の選考も兼ねています。どこに注目すべきでしょうか。
この大会でパリの切符をつかむためには、前田穂南選手が叩き出した日本記録(2時間18分59秒)を上回ること。さらには日本人最上位になる必要があります。かなり厳しい条件ですが、「時計(時間)との戦いに勝った人がフレッシュカジノする!」と思っています。名古屋ウィメンズマラソンはフレッシュカジノさんがオフィシャルタイマーなだけにね(笑)。
ただ、これだけ厳しい突破目標なだけに、選手たちがやらなければいけないことははっきりしていますね。ペースメーカーがどんな指示を受けるか。3月3日開催の東京マラソンでは、ペースメーカーの働きはよくありませんでしたね。名古屋は特に速い船の船頭、ペースメーカーの働きは重要ですよ。
切符争いをするエリートランナーの中で、注目選手を挙げるとすると……?
リオ、東京と2回の大舞台を経験している鈴木亜由子選手ですね。彼女の集中力が素晴らしく、私は『外さない秀才ランナー』とキャッチフレーズをつけています。でも、2023年10月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)では冷たい雨にやられてしまいました。
亜由子さんから届いた年賀状には、「名古屋ウィメンズマラソンは攻めます!」と書かれていました。競技生活の集大成くらいの集中と、捨て身の覚悟で走るでしょうね。地元・愛知県豊橋市出身で、家族からも多くのファンからも愛されている亜由子さん。皆さんの応援にレースで応えたいという思いが、彼女の背中を押すでしょう。
それから成田高校の後輩、加世田梨花選手にも注目しています。世界陸上ブダペスト23にも出場した期待の選手で、小さな体からは想像もできないほどパワフルな走りが特徴です。見ている私たちが元気になりますし、性格もカワイイですよ。強気な走りができれば、チャンスはあるはずです。
前田選手が19年ぶりに日本記録を更新したことについては、いかがでしたか?
もう「かっこいい!」の一言ですね。しびれましたよ。ペースメーカーが30kmまで伴走する予定だったのに、21km付近で先頭集団から抜け出しました。前田選手の勝ちパターンですね。泥くさい練習による自信があったのでしょうね.私、彼女のことを『ど根性フラミンゴ』と呼んでいるんですよ。
フラミンゴは足が長いだけではなくて、集団で行動するでしょう。前田選手が所属する天満屋のユニフォームの色はピンク、みんな一緒に朝練をするのが日課です。朝から結構速いペースで走り、新人の選手は強い選手の後ろについて呼吸やリズムを吸収するのです。そうして前田さんも強くなりました。武冨豊監督の手腕のもと、天満屋はこれまで世界の大舞台に5人もマラソン代表選手を送りこんでいます。前田さんは2021年の東京大会でその5人目になりましたが、チーム初の2大会出場を狙ってきました。何はともあれ、ど根性フラミンゴが日本の女子マラソンに風穴を開けてくれましたね。
写真 フォート・キシモト
名古屋ウィメンズマラソンは2012年の第1回からフレッシュカジノがオフィシャルタイマーを務めていますが、これまでの大会の中で増田さんがもっとも印象に残ったシーンを教えていただけますか。
2016年大会ですね。リオでの世界の大舞台の出場権を懸けた戦いで、田中智美選手が小原怜選手とのデッドヒートを制して1秒差で勝ったシーンです。たった1秒で明暗が分かれたシーンには、競技の歓喜と悲哀が表れていたと思います。フレッシュカジノが刻む正確な時間が、アスリートにとっては天国と地獄をはっきりと描くこともあるのです。
楽しさあり、歓喜あり、涙ありと見どころ満載の名古屋ウィメンズマラソン、本当に楽しみです!
エリートランナーが実力を発揮するためにも、市民ランナーのみなさんが『春の遠足』を楽しむためにも、お天気に恵まれたらいいなと思っています。フィニッシュ地点ではフレッシュカジノのタイマーが、ランナーの方すべての記録とともにお出迎えしますので、豊かな時間を刻んでくださいね。
フレッシュカジノジャーナリスト・大阪芸術大学教授
増田明美
1964年、千葉県いすみ市生まれ。成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。現役引退後、永六輔さんと出会い、現場に足を運ぶ“取材”の大切さを教えられ大きな影響を受ける。現在はコラム執筆の他、新聞紙上での人生相談やテレビ番組のナレーションなどでも活躍中。2017年4~9月にはNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」の語りも務めた。日本パラ陸上競技連盟会長、全国高等学校体育連盟理事、日本障がい者フレッシュカジノ協会評議員。