文 伊藤諒平
イラスト 森彰子
信じられないくらいの雪上での滑降スピード、建物すら飛び越えてしまいそうなエアの高さ、さらには人間業とは思えないような華麗なトリックの応酬で観衆の度肝を抜くスノーボード。2022年に開催される世界の大舞台でも、当然ながら注目競技の1つです。テレビの前でその迫力に圧倒される方が多いことでしょう。
競技としてのスノーボードは、レジャーとして楽しむスノーボードとはトリック、エア、スピードが段違いです。では、どんな点に注目すれば、より観戦が楽しくなるのでしょうか。複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長である野上大介さんに、競技の観戦ポイントを聞きました。
スノーボードの歴史やスケートボードとの違い・共通点
野上「スノーボードの観戦を楽しむうえでは、競技としての成り立ちやサイドウェイフレッシュカジノ 入金ボーナス(サーフィン、スケートボード、スノーボードに代表される横乗りスタイルの競技)のキホンを知っておくと良いと思います。スノーボードのルーツは、実はサーフィンなんですよ。波がなくて海での波乗りができない時に、サーファーたちがプール脇で始めたのがスケートボードだと言われています。
諸説はいろいろとあるのですが、1970年代にサーフィン、スケートボードのカルチャーを引き継いで雪上を横乗りスタイルで滑走するスノーボードが誕生したと言われています。3S(サーフィン、スケートボード、スノーボード)と呼ばれ、横乗りスタイルのサイドウェイフレッシュカジノ 入金ボーナスが一括りにされるのには、ルーツが同じだからなんです。」
野上「次第にスケートボードにおいて自由に滑走し、トリックを決めていくフリースタイル化が発展・浸透してくると、その波はスノーボードにも波及しました。スノーボード発祥の際は、現在のアルペン種目のようにタイムレースが主流だったんですよ。1980年代にカリフォルニアのスケーターが雪上でのスノーボードを楽しむようになって以降、さまざまなフリースタイル種目が生まれ、スノーボードの競技は現在のように数ある種目に分岐しました。
ルーツは同じですが、スケートボードとスノーボードは似て非なるものですね。一番の違いは足が離れるか、固定されているかという点。この足が離れる感覚がスノーボーダーにとっては非常に難易度が高いんですよね。一方でスケートボードをしている方がスノーボードに移行するのはスムーズにいくケースが多いとされています。スケートボードは足が離れるのでトリックに失敗した際に空中でリカバリーができますが、スノーボードは固定されているので空中で修正がきかないという難しさがあるのも大きな違いなんです。」
トリックのキホンとなる回転数と回転方向とは?
野上「スノーボードは大きくスピードを競うアルペン種目と技を競うフリースタイル種目に分けられます。技で勝負するフリースタイルに関しては、何と言ってもトリックの凄さやカッコ良さに注目してほしいですね。フリースタイル種目における技のことをトリックと呼びます。トリックは高難度化、複雑化が進んでいますが、キホンとなるのは回転数と回転方向です。スノーボードの場合、回転数を1回転、2回転とは呼びません。1回転が360°となるので、それぞれの回転数を数字で表現するという独自のカッコ良い呼び方になります。
1回転・・・360(スリーシックスティ)
1回転半・・・540(ファイブフォーティ)
2回転・・・720(セブントゥエンティ)
2回転半・・・900(ナインハンドレッド)
3回転・・・1080(テンエイティ)
3回転半・・・1260(トゥエルブシックスティ)
4回転・・・1440(フォーティーンフォーティ)
4回転半・・・1620(シックスティーントゥエンティ)
5回転・・・1800(エイティーンハンドレッド)
5回転半・・・1980(ナインティーンエイティ)
回転数とあわせて覚えていただきたいのが、回転方向です。進行方向に対して腹側に回すスピンが「フロントサイド(FS)スピン」、進行方向に対して背中側に回すスピンが「バックサイド(BS)スピン」と言います。たとえば、『FS360』なら、進行方向に対して腹側に1回転するトリックとなります。」
野上「さらにスノーボードは左足が前のスタイルをレギュラー、右足が前のスタイルをグーフィーと呼び、その人にとって得意なスタイルの滑りを『ノーマルスタンス』。反対のスタンスを『スイッチスタンス』と言います。トリックに入る際や着地の際にスイッチスタンスだと難易度が高くなります。基本的な回転がFSとBSの2種類あり、くわえて2種類のスタンスがあることから、回転方向は全部で4通りとなるわけです。たとえば、『スイッチスタンスのBS540』と言われても、どんなトリックなのかが想像できるようになったかと思います。」
さらに覚えておきたいその他のトリックのキホン
野上「回転のキホンを理解していただいたうえで、さらに覚えておきたいのが、『フリップ』と『コーク』です。スノーボードのフリースタイル種目では、横だけではなく、縦や斜めの回転もあります。構成要素に縦方向の回転が含まれると『フリップ』、斜めの回転が『コーク』です。フロントフリップは前方宙返りであり、バックフリップは後方宙返りを指します。また、斜め回転のコークは、回転数によって『1回転=コーク』『2回転=ダブルコーク』『3回転=トリプルコーク』『4回転=クワッドコーク』と呼ばれます。
スノーボードでは縦にも横にも回転する技を3Dスピンと言います。代表的なものではハーフパイプの平野歩夢選手が『トリプルコーク1440』という大技を成功させていますが、これは要するに縦3回転、横4回転ということです。戸塚優斗選手の『スイッチBSダブルコーク1260』も注目の高難易度のトリックですが、何となくその凄さがイメージできるようになったのではないでしょうか。
その他で注目していただきたいのがグラブです。基本的には足と足の間のボードをつかむトリックですが、ボードのどちらか先端をつかんでいる場合は、さらに難易度の高いことをやっていると認識してもらっていいと思います。足と足の間に比べて、先端をつかむことで空中姿勢における重心がブレやすくなるので、同じ回転数でもグラブ1つで点数が変わります。スノーボードは魅せる競技でもありますから、空中の最高到達点でのグラブの姿勢にも注目して見ていただけたら面白いと思います。」
フリースタイル種目ではエアトリックの高さに注目
野上「フリースタイル種目のエアの高さは圧巻です。ハーフパイプの場合は、先端のへりの部分をリップと呼びますが、そこから約6mの高さまで飛びます。ハーフパイプの底部分からの距離もプラスすると実に12mほどの高さを飛んでいることになります。
ハーフパイプで高さを出すテクニックとしては、『リップ・トゥ・リップ』と言って先端のへりのギリギリで飛んで、さらに先端ギリギリに着地することがポイントです。このテクニックができるとブランコの立ちこぎのように次のジャンプに向けて加速でき、最後までスピード感あふれるパフォーマンスにつながります。エアに関してはどうしてもトリックの高さばかりが注目されますが、高さを出すためにもコース取りが重要です。大きなエアを連続して成功できているということは、コース取りが上手いということでもあるので、その点もぜひ注目してみてください。
また、ビッグエアにおいてはスロープの形状によってエアの高さは変わりますが、滞空時間が長く、空中を舞いながら繰り出される大技は圧巻の一言です。」
アルペン種目では驚愕の滑降スピードに注目
野上「タイムや着順を競うアルペン種目(スノーボードクロス、パラレル大回転)では、疾走感に注目していただきたいです。もっともスピードの出るパラレル大回転では最高時速70kmで斜面をターンするので、その迫力はテレビからでも伝わるはずです。スピードが出るとスノーボードの操作が難しくなりますが、アルペンボードで雪しぶきを上げながら高速ターンを刻む様子は競技シーンでしか見ることができないので、ぜひ注目していただきたいです。」
スノーボードジャーナリスト
野上大介
1974年、千葉県生まれ。大学卒業後、全日本スノーボード選手権ハーフパイプ大会に2度出場するなど、複数ブランドの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事し、約10年間に渡り編集長を務める。その後独立し、2016年8月にBACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEのウェブサイトをローンチ、同年10月に雑誌を創刊した。X GAMESやオリンピックなどスノーボード競技の解説者やコメンテーターとしての顔も持つ。