文 小山裕也
イラスト 森彰子
世界の大舞台の中でも、“花形”として注目度が高い陸上競技。中でも100m、200m、400mなどの短距離走種目は、ダイナミックな走りとスピード感が桁違いだと言えます。最速の座を争う選手たちが、数センチ、数ミリの差で勝敗を左右するギリギリの展開や、記録への挑戦といったドラマから目が離せません。
しかし、1000分の1秒単位のまさに刹那で勝負が決まることもある競技だからこそ、タイムの正確な計測が不可欠です。では一体レースのタイムをいかにして正確に計測しているのでしょうか。今回は陸上競技におけるタイムの計測方法や、よく耳にする「速報タイム」と「公式タイム」について解説します。
陸上競技のタイムは赤外線と画像で計測!
学校の体育などで短距離走のタイムを計測する際は、ストップウォッチを使用するのが一般的ですよね。しかし、1000分の1秒単位で勝負が決まる世界大会ともなればそうはいきません。ではどうやって正確な計測を実現しているのでしょうか。世界レベルの陸上競技におけるタイムの計測方法について紹介します。
【赤外線と画像でタイムを計測!】
正確な計測が求められる陸上競技では、「赤外線」と「画像」の2つのシステムを組み合わせることで素早く正確にタイムや着順を確定しています。それぞれのタイムの計測方法についての詳細は以下の通りです。
・赤外線でのタイムの計測方法
コースを挟むように投光器と受光器を設置。その間に発生している赤外線のセンサーが遮られた瞬間を信号に変換し、計時機器へ送信することでタイムを計測します。赤外線での計測値は「速報タイム」として発表され、ゴール直後に各選手が最初に掲示板を通して結果を目にすることになります。全自動でゴールの瞬間にタイムが表示されるので、観客や選手に素早く情報を提供。特に日本記録更新の際などは、選手・観客とその場に居合わせた人すべてがすぐに結果が把握できるところが最大のメリットです。選手が喜ぶと同時に観客の喝さいが聞こえるなど、会場の盛り上がりに一役買っているのが速報タイムだと言えるでしょう。
・画像でのタイムの計測
「公式タイム」は1/10,000秒まで計測可能なフォトフィニッシュカメラを使用し、ルールに従って1/100秒単位で計測します。各選手のフィニッシュ画像からトルソー(首から下の上半身)がフィニッシュラインを通過した瞬間を判定し、タイムや着順が決定します。画像判定の画面上には風速を記録する場所もあり、+2.0m以内の状況で初めて公式記録として判定。+2.1m以上は追い風参考記録となります。ちなみにルールが1/100秒単位の記録のため、同タイムで2人以上の選手がフィニッシュすることも十分あり得るでしょう。この場合は「同タイム着差あり」となり、さらに細かく1/1000秒単位で着順を判定します。その距離僅か数センチ。短距離走は特にその数センチが勝負の分かれ目になることが多々あるのです。
陸上競技では2つのシステムによって「速報タイム」と「公式タイム」という2種類のタイムが計測されていることが分かりました。ゴールしたすぐ後に速報タイムが発表され、少し時間を置いてから公式タイムが明らかになります。この時に「速報タイムより公式タイムのほうが記録が良くなった」という事態を目の当たりにした経験がある方もいるでしょう。実は2つのタイムにおいて、差異が発生するケースは少なくありません。しかし、それは機械の不具合などではなく、赤外線と写真による計測で判定の基準が異なることが大きな要因です。
速報タイムは、選手が赤外線を遮った瞬間が該当するため、選手の腕やバトンなどが通過した場合もゴールタイムとして扱われます。しかし、写真判定でチェックするのは、陸上競技の規定に基づいてトルソー(頭・首・腕・脚・手・足を除いた胴体部分)がフィニッシュラインを通過した瞬間です。そのため、ゴール時の姿勢によって速報タイムと公式タイムで差が出ることがあります。
スターターピストルは本物!?陸上のトリビア
陸上競技には、他にもまだまだ面白いトリビアが隠されています。陸上競技に幅広く興味が持てるように、知っているとちょっとしたネタになるトリビアを3つ紹介します。
● 昔はタイム計測を人の手で行っていた!
技術の進歩により、現在では赤外線や写真判定などの計測システムが一般的になりましたが、それ以前の陸上競技ではタイムの計測は人の手で行われていました。その計測方法はいたってシンプル。各レーンごとにストップウォッチを持った時計員が3人配置され、ゴールの瞬間に止めるというもの。人の手ではどうしても誤差が発生するため、時計員3人の中間タイムを公式タイムとして採用していたとのことです。
● スターターのピストルから音は出ていない!
陸上競技ではスタートの合図としてピストルを鳴らしますが、近年の大会で使われているピストルはタイマーをスタートさせるスイッチの役割のため音は出ません。その理由としては、すべての走者へ音が届くまでにタイムラグが発生するのを防ぐためです。スタートの合図となる音は、実は選手の足元にあるスターティングブロックやトラックの内周に設置されたスピーカーから発生しています。
● スターターピストルに本物の拳銃が使われていたことも!
スターターが使用するピストルは音を鳴らすだけの道具ですが、過去には本物の銃を使用して空砲を鳴らしていた時代もあったとされています。海外では拳銃を扱うことができる警察官らがスターターを務めることも多かったようです。
昔のアナログな計測方法から、ハイテクスピーカーが発するスタート合図、本物の拳銃の使用まで、陸上競技には意外と知らない小ネタが満載ですね。競技の細かい部分や裏側にまで注目すると、より観戦が楽しくなるかもしれませんよ。
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