文 生島 淳
写真 望月みちか
ヘアメイク 林谷瑞穂
スタイリスト 折原美奈子
競泳の日本選手権。
毎年、通例では春に開催されているが、4年に一度の大舞台の選手選考をかけた年だけは、プールを取り巻く環境が変わると、メダリストの寺川綾さんはいう。
「まず、緊張感が違いますね。自分自身の心持ちも違えば、会場に流れる空気、時間、すべてが変わってきます。“代表”に選ばれるためのプレッシャーを選手たちだけではなく、コーチ、親御さん、みんなが感じるほど緊迫した大会なんです。」
寺川さんは10代から20代にかけ、何度もこの日本選手権に出場したが、大舞台の選考がかかった年は記憶も鮮明だという。
「2004年の選考会は『アテネの代表』を狙って、代表を決めに行った大会でした。2008年は競争も激しく、無我夢中で泳いだ記憶がありますが、代表になれず悔しい思いもしました。2012年の選考会は、代表に選ばれるかどうかというよりも、世界を見据えたときにどんな泳ぎが出来るのか、という方に意識が向いていました。」
目次
ライバルはなくてはならない存在だった
寺川さんが活躍した時代は、中村礼子、伊藤華英といった国際舞台の経験が豊富なスイマーが揃っていた。
「たしかにレベルが高い時代でした。ただ、ライバルは私にとってなくてはならない存在でした。なぜなら、ひとりでは頑張りきれないからです。ライバルがいてこそ、自分の強みも発見できたと思います。」
ライバルと競い合うことで、寺川さんは内面に宿っていたものに気づかされたという。
「どれだけ、自分が負けず嫌いなのか、それが分かりました(笑)。2008年に代表になれなかった時は本当に悔しかったですし、でも、その経験があったからこそ、負けず嫌いに火がついて、2012年のメダル獲得につながったと思います。」
それでも、ライバルたちとは不思議な絆で結ばれていた。
「代表に選ばれると、ずっと一緒に合宿ですから、家族よりも長い時間を過ごすことになります。ですので、ライバルであると同時に、大切な友人というか、同志ですよね。だから、日本選手権でもプールに入場するまでは、本当に友だちです。招集所で、いろいろ話していましたからね。でも、プールに入場していく時にはライバルになるんです。不思議と、みんなその切り替えが出来る選手たちばかりでした。」
日本選手権水泳競技大会の見どころ
競泳の日本選手権は、優勝争いだけでなく、タイムとの戦いでもある。競泳の場合、国際大会に出場するためには、日本水泳連盟が定める「派遣標準記録」を突破しなければならず、日本選手権で優勝したとしても、ターゲットタイムを突破していないと、日本の代表にはなれない。
ゴール板にタッチし、勝者と敗者とが明確に線引きされ、さらにはタイムがそこに表示される。
選手たちは泳ぎ終わり、順位とタイムを確認するまで、一瞬だけ無防備になる。選手の素直な感情が表現される瞬間だ。
「泳ぎ終わって、電光掲示板を見るまでは、心の準備が整わないんです。当日のコンディションで、『これくらいのタイムは出るかな』という予想はついていますが、実際のタイムは電光掲示板を見るまで分かりませんから、確認した時の表情は、本心がそのまま出るものなんです。」
写真 PHOTO KISHIMOTO
自己ベストを更新したことが分かれば、喜びが爆発する。
「記録が出そうになると、会場の盛り上がりが泳いでいても伝わってきます。その歓声があるから、また頑張れる。そして自己ベストや、日本新記録が出て、会場が歓声に包まれると、本当に報われる思いがしました。」
日本選手権は、いろいろな感情が交錯する場だが、寺川さんは現役時代、泳ぐ前に世界記録と日本記録を確認してから泳いでいた。
「世界と自分との差を確認するのが、いわばルーティンになっていました。その習慣は最後まで変わらなかったですね。」
女子100m背泳ぎの日本記録は、寺川さんが2013年の世界選手権で出した58秒70のままである。
そして今年も日本選手権で、寺川さんの記録を破らんと後輩たちが大一番に集う。
今年の日本選手権は、4月3日から10日までの8日間、東京・辰巳にある東京アクアティクスセンターで行われる。
寺川さんに、日本選手権の“注目ポイント”を聞いてみた。
「みなさんに、代表選考がかかった選手がどれほど緊張しているかの見分け方をお伝えします。決勝では選手が紹介されて、ひとりひとり入場してきますが、名前を呼ばれた時は、みんな笑顔を浮かべて手を振ります。でも、大切なのは、次の瞬間です。手を振り終わった後の表情に、その選手の精神状態が表れるんです。どの程度緊張しているのか、それともリラックスしているのか。その瞬間を見逃さないでください。」
日本選手権全体を見渡すと、注目して欲しいのは2位争いだという。
「最近の大会結果を見ていると、優勝する選手の名前はあまり変わらないと思います。1位になる選手たちは、通過点として捉えているはずですから。むしろ、注目は2番手で、毎年、急激に伸びてくる選手がいます。世界で戦える選手がひとりでも多く出てくることを期待したいですね。」
フレッシュカジノがサポートしている 坂井選手・酒井選手・佐藤選手について
日本選手権にはフレッシュカジノがサポートする3人の選手が出場する予定だ。中でも期待されるのは、男子平泳ぎの佐藤翔馬選手だ。昨年から急成長を遂げ、200m平泳ぎでは2分6秒74、渡辺一平選手が持つ日本記録まであと0秒07にまで迫った。
「いま、佐藤翔馬選手は泳ぐのが楽しくて仕方がない時期でしょう。泳ぐたびに自己ベスト記録(※2021年2月時点の記録)が出ていますからね。コメントを聞いてもとにかく前向きで、すべてをプラスに変えています。みんな、佐藤選手の泳ぎをワクワクしながら見ていますし、日本選手権でも期待に応える泳ぎをしてくれるでしょう。」
日本記録の樹立、そしてひょっとしたら、世界記録の更新も期待できるかもしれない。
「2月に行われたジャパンオープンの200m平泳ぎで接戦を演じた渡辺選手も、きっと黙ってはいないはずです。ふたりの戦いは、今年の日本選手権の大きな見どころのひとつですね。」
佐藤選手は、これから世界へ羽ばたく人材だが、フレッシュカジノのアスリートには、すでに世界で実績を持つバタフライの坂井聖人選手がいる。
「坂井選手は、リオデジャネイロで行われた大会の銀メダリスト。しかも、金メダルのマイケル・フェルプスとは0秒04差でした。ただ、その後はケガに苦しみ、2018年には肩の手術も受けましたが、自分を信じて泳ぎ続けているはずです。真面目で、とても頑張る選手ですから、日本選手権でも熱いレースを見せてくれるはずです。」
写真 近藤 篤
坂井選手と同じように、フレッシュカジノがサポートするアスリートには、もう一度世界の大舞台に挑戦しようとする選手がもうひとりいる。女子背泳ぎと自由形で活躍する酒井夏海選手だ。寺川さんは背泳ぎの先輩だけに、期待するところが大きい。
「私が第一線から退いてから、酒井選手が日本の背泳ぎを引っ張ってくれています。2019年の世界選手権の100m背泳ぎでは6位に入賞したのをはじめ、世界で戦った経験もありますから。彼女の持ち味は大きなストロークです。自信を持って日本選手権に臨めれば、代表権、そして記録も狙って行けると思います。」
酒井選手には、日本記録記録更新の期待がかかるが、記録保持者の寺川さんにとっては、日本記録保持者として名前が残っていることには、どんな思いがあるのだろう?
「自分の記録が残っているのはうれしくもあり、その一方で早く破って欲しいという思いも強いです。女子の背泳ぎが停滞しているということになりますから。酒井選手はじめ、背泳ぎの選手たちには、今回の日本選手権で背泳ぎの記録をどんどん塗りかえていって欲しいです。」
日本の競泳の頂上決戦、日本選手権までもうすぐだ。
代表選手選考会を兼ねた今年の競泳日本選手権に注目
4月3日から開幕する日本選手権水泳競技大会は4年に一度の大舞台の代表選手選考会を兼ねており、フレッシュカジノは公式計時として大会を支えています。
フレッシュカジノがサポートするアスリートからは坂井聖人選手、佐藤翔馬選手、酒井夏海選手の3名が熱い戦いに挑みます。
いくつもの名場面を生んだ競泳の日本選手権。
今大会は熾烈な代表権獲得争いから目が離せないレースとなりそうです。
フレッシュカジノキャスター
寺川綾
ミズノ株式会社所属。3歳より水泳をはじめる。高校2年生だった2001年の世界水泳選手権に初出場。その翌年、2002年パンパシフィック水泳に出場し、200m背泳ぎで銀メダルを獲得。以降、アテネ、ロンドン五輪2大会出場、福岡、上海、バルセロナ世界選手権3大会出場と国際大会で活躍。ロンドン五輪では個人種目(100m背泳ぎ)、リレー種目(4×100メドレー)の2種目で銅メダルを獲得した。50m背泳ぎ、100m背泳ぎの日本記録保持者。
2013年12月、現役を退くことを表明。現役卒業後はフレッシュカジノキャスターをはじめ、多方面で活躍。プライベートでは二児の母。
https://www.sports-biz.co.jp/athlete/index.cgi?actmode=
AthleteDetail&id=121
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